イギリスの喜劇女優ルビー・ワックスが、自身のうつ病の体験をきっかけにオックスフォード大学でマインドフルネス認知療法を学び、それを日常生活で気軽に実践可能なストレッチ中心のプログラムにアレンジして、本書で紹介しています。著者自身の手に負えない思考の暴走もオープンにしながら、なぜストレスがたまるのか、脳のキャパシティが現代生活に追いつけない理由を説明する一冊です。
私たちの多くが、ヘトヘトになった心を抱えて生きています。ここで言う「私たち」とは、比較的安泰な世界で、侵略や飢餓や疫病にも遭わず自由に生きている人々のことです。いい時代にいい場所で生まれるという当たりくじを引いたのに、ストレスがつらいと文句ばかり。自分の歯を失わずに109歳まで生きることだって可能だというのに、なぜそれを喜べないのでしょう。息をしている、ただそれだけで、シャンペンを開けてお祝いしたっていいくらいなのに。
私も、ストレスなんか感じなくてよい場面でストレスを作り出しているひとりです。この本を書きながらも、ひどくストレスを感じています。自分が正しく文章を書いてるか木になって仕方なくて! 頭上に爆弾でも落ちてくるなら心配して当然でしょうが、句読点の1個1個が正しいかどうかわからなくなってパニックになりかけるのですから、手に負えません。実際に起きているものごとではなく、ストレスについて考える思考そのものが、私たちを締め上げているのです。
知っていますか?──現代は非常事態にあります。どこかの国のイカれたリーダーが第三次世界大戦を起こそうと画策しているとか、そういう話じゃありません。人間は今、のぼってきた進化の坂を逆に転げ落ちる寸前まで来ています。坂のてっぺんで夢遊病みたいにフラフラするのを今すぐやめないと、四つ足歩行に真っ逆さま。ロケットを飛ばして宇宙を探索する一方で、人間は自分自身の探索を怠ってきました。なぜ競うのか考えようとせず、他人を出し抜いて成果を出すことにただただ必死なのです。
そんな生き方にぼんやり流されていてはダメ。堂々巡りの思考回路を抜け出して、文字どおり、自分の感覚を取り戻さなければ。生きるとはそういうことです。言葉だけではなく、目で見て、匂いを嗅いで、音を聞いて、触って、味わって生きていかなければ。
あなたは今日、口に入れた食べ物を、どれくらい本当に 味わったでしょうか? 生まれたときにこの世界で目を開いたはずなのに、いつのまに居眠り運転の生き方を始めていたのでしょう? もっと原始的な生き物だった頃は、小枝が折れる音にも、茂みがそよぐ音にも、すぐに目を覚ましていたはずです。それなのに今の私たちは、雑踏をかきわけ、用事を片づけ、モノを引き出しにしまい込む作業に大忙しで、自分の感覚をちっとも使っていません。
To Doリストの雑用をこなすのが「生きる」ということではないはずです。平静な心を保つ生き物へと進化して、そこから本当に「生きる」ことを始めなければ。グズグズしてはいられません。残された時間はもうあまりありません。しっかりと目を開いて生きていく方法を学ぶのか、それとも、ぼんやり夢遊病で坂を転がり落ちていくのか、どちらかしかないのです。
本当に「生きる」ために助けになるのがマインドフルネス。それを体験する方法が、マインドフルネス瞑想。こむずかしいことを考えず、気軽な気持ちで、ちょっとやってみてもいいんじゃない? っていう、そういう本です。
推敲にあたって、尊敬する聡明かつバイタリティあふれる翻訳家、上林香織さんの力を借りました。ありがとうございます。
というわけで、今年の2冊目。お見かけになったらどうぞ手に取ってみてください。表紙と装丁がかわいくて、ちょっとポップで、とてもいいです。
ちなみに、40歳で合計40冊は間に合わなかったけど、41歳で41冊は間に合って、今回が42歳で42冊目。ここからは年齢を追い越していくよー。