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集団の知性

『集合知の力、衆愚の罠』。 本書の原題はそのまま、The Power of Collective Wisdom and the Collective Folly という。 内容に照らして 「集合知」 という言葉を選んだけれど、意味を区別して伝えるとしたら、本書で言う Collective Wisdom は 「集団の知性 (集団が持つ知性)」 と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
人間が集団やコミュニティに集まれば、深い理解や洞察、秀でた知識を活かせるようになり、賢い行動と望ましい結果がわかるようになる。 私たちはこうしたタイプの 「わかる」 を 「集合知」 と呼び、人間固有の能力として、すべての集団に発生しうると考えている。

もとからあった知の寄せ集めではなく、人と人とが集まることによって新しい知が出現する。 自分ひとりでは思い浮かばなかったアイディアが、人と一緒にいると、なぜかふっと立ち上ってくる。 そうしてひとつ上のレベルに昇華した集団は、ともに抱える問題をともに解決する力を手にする。
現代の私たちには、これまで以上の深さと規模で人と力を合わせていこうという認識と、そのための方法が必要だ。 新聞の一面にも、それぞれが属す組織にも、家族や友人のつながりにまでも、まさしくあらゆる局面にその必要性が見てとれる。 手を結び、協力し、理解しあう正しい道が見つからなければ、地球温暖化や貧困や戦争のように、国として、また国際社会としての私たちを悩ませている大きな問題はもちろんのこと、身の回りで刻々と膨れ上がるかのような無不秩序や混乱の解決策は見つからない。

もはやこれ以上、自らの首を絞め、現実に起きている事実を否定し、どうにもならないとうそぶいているわけにはいかないのだ。 文字通りの意味でも比喩的な意味でも、世界的な課題と、日常的に出会う極性化と細分化の過熱を冷やせなければ、受け入れがたい末路へと転がり落ちていくことになる。 私たちの未来、そして子供たちの未来までもを、そんな危険な賭けにさらしていちかばちかの話にしてしまうわけにはいかない。

本書は、集団の知が生じる方法、反対に集団に愚挙が蔓延する光景を丁寧に解説。 ユングやエマソンの体験、NASAのロケット打ち上げ失敗の真相、「賢い者だけが住む」 とされる奇妙な村の逸話など、興味深いエピソードをまじえながら知を生む方法を提唱する。


・・・ボリュームはそれほど多くありませんが、これまでの私の訳書とは少し傾向の異なる本を訳すことができました。作業にあたっては、信頼する若き翻訳者、久保尚子さんの力をお借りしました。改めてお礼申し上げます。
この本はゲラチェックがなく、最終原稿が私の手を離れてから随分とお色直しがされていて、今私も驚きの気持ちでページをめくっているところです。

今年の訳書出版はこれで打ち止め。 今年出た本 (もちろん、それまでの本も) 読んでくださった皆さま、ありがとうございました。 次は1月(の予定)です。 どうぞ今後ともよろしくお願いします。


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Commented by 久保尚子 at 2010-12-16 00:33 x
yumiさん、おつかれさまでした!素晴らしい原稿をフライングで読ませていただけて、おいしい役まわりでした。ありがとうございました。

ゲラチェックなしでいきなりご対面のお色直し・・・どうなんでしょうか、やはり複雑な心境なんでしょうか~? とても読み応えのあるご本、しかもご時世的にも、深く読もうと思えばいくらでも深く読める内容だと感じられましたので、ひとりでも多くの方に広く読まれるとよいなと心より願っております。きっと、読む方お一人お一人の受け取り方にも幅があるかと。その、お色直しのされ方にも、きっと担当された編集者さんなりの「読み方」「届け方」が刻印されているはず。そう思うと、とても興味深くて、(まだ書店に見に行けてないのですが)できあがった訳書を拝見するのがますます楽しみです!
Commented by yumi_in_the_rye at 2010-12-16 10:37
ありがとうございました。色々と相談に乗っていただき、どんなに心強かったことか。ぜひぜひぜひ、また何らかの形でお仕事ご一緒したいです。

お色直しアリで出版されたこの本は、もはや私の書いた言葉ではないようで、ある意味で新鮮です。評価は受け手の方しだいでしょう。例によってどきどきしながら見守りたいと思います。
by yumi_in_the_rye | 2010-12-14 17:03 | 仕事のこと | Comments(2)

鋭意翻訳中  【翻訳勉強会 満員御礼 次回は募集はまたいずれ】


by yumi
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