still crazy after all these years



世界はそれを愛と呼んだり呼ばなかったりするんだぜ

先日まで訳していた本の中に「人は映画に未知と既知を求める」 という表現があって、訳しながらそうだよなぁと思った。 見たこともない映像、体験したことのない世界を見せてほしいと望みつつ、そこに 「ああ、この感情は知っている」 という共感を求める。人は映画をそうやって楽しむものだ。 まぁ映画に限らずだけど。
で、『インターステラー』 を観たときの感覚は、まさにそれだったな、と。

時間と空間の 「先」 があんなふうにつながっている様子は、確かに今までの映画では観たことのない未知の映像だった。 その一方で、あれは確かに私にとって既知だった。 中学校や高校の図書館でさんざんのめりこんだSF小説で、さんざんなじんだ世界だったから。 日本で1人挙げるとすれば私にとっては新井素子で、外国ではP・K・ディック、いやブラッドベリか、ハインラインかな。

だから、『インターステラー』 を観たとき、むしろ 「ああ、ようやく追いついてきたんだな」 という感想のほうが強かったかもしれない。

あの映画は「結局、愛の話にしちゃうのが幻滅」 という感想をよく聞くけれど、私はそうじゃないと思っている。 あの話は、「人は名付け得ぬものに何か名前をつけようとせずにいられない。 それにたどりついてしまうことを恐れながら、求めに行かずにはいられない」 という話じゃないだろうか、と。
名付け得ぬものを愛と呼ぶか。 科学と呼ぶか。 絶望と呼ぶか。 時間と呼ぶか。それはまったく違うように見えて、実は大きなひとつのことにすぎないのかもしれない。アン・ハサウェイ演じるアメリアが最初のワープで触れた 「何か」、彼女が愛と呼んだそれが、主人公親子にとっての真実であり、知力と科学を尽くして追求していた成果でもあったという一点に、それは象徴されていると思う。 そもそもこの映画は最初から <ネタバレ→> 希望と呼びたいものを科学にすりかえ、その妄想を守るというのが目的であったのに、それこそが真実につながってくる<←> という話なのだし。

なんと名をつけていいかわからないから、人はそれをひとまず知っている言葉で呼ぶ。 その名前もわからぬ未知のものは決して手に入れられない (手に入れた途端にそれは既知という別のものに変質するから) ので、「追いかける、求めに行く」 というプロセスを続けずにはいられない。

愛と呼ぶものと理性と呼ぶものと、宗教と科学と、芸術と数学とは、結局のところは同じ1つの名付け得ぬものを 「どう呼んで、どう求めていくか」 というだけの違いじゃないだろうか。

この感想すらも私にとってはきっと既知の感想だ。 映画 『コンタクト』 を観たときも、『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』 や 『ビューティフルマインド』 を観たときも似たようなことを、けれどそのたびごとに新鮮に考えたような気がする。 それらの対極にあると言えそうな 『17歳のカルテ』 や 『シルヴィア』 (どちらも映画、本ともに) でも。

ぶっちゃけ、英語のLOVEはかなりおおざっぱでいい加減な言葉だなぁと思っているのだけれど、それは 「よくわからないもの」 を意味的にもメタ的にも的確に表しているんじゃないか、という気がする。

サンボマスターが 「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」 というときも、
中島みゆきが「それは愛ではない」というときも、
まったく正反対のことを言っているようで、奥底ではきっとまったく同じことを指しているんだぜ。






・・・ちなみに、これはとても微妙な話で説明しづらいのだけれど、翻訳ではごくまれに「正反対に訳したほうが同じ意味になる」というときがある。原文が間違っているとか日本語で意訳するとかいう問題ではなく。
大きく見たときの真実は、実に多彩な顔をもつことがある。そういうのに出会えるのもこの仕事の面白さの1つ。
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5/29の作業記録
 案件A:13枚訳す。
 案件K:8枚訳す。
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by yumi_in_the_rye | 2015-05-30 11:55 | 観た映画 | Comments(0)
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