still crazy after all these years



何人もの彼を

彼のことは、今もよくわからない。

『ヒース・レジャー追悼写真集』 を訳すにあたって、彼が出演している作品をほぼ全て観た。 手に入らなくて見られなかったのもあったけど、YouTube で断片的に確認できる映像も含め、以前に仕事とは関係なく観ていた映画も含め、可能なかぎり全作品を、少なくとも2回ずつは観た。 そして観るたびに、観直すたびに思った。 この役者は誰だろう?

彼は作品ごとに、あまりにも 「ちがう」。 それは演技力とか、俳優としての上手さ、みたいな表現ではちょっとピンと来ないほどの違いだ。 別の作品での彼を観ていたときには、こんな表情を見せるとは到底信じられなかったような表情を、この作品で見せる。 そして、この作品を観ていたときの印象からは到底想像もつかないような役を、別の作品で演じている。 その 「ちがいかた」 は、一般的な俳優で言われるような 「意外な役に挑戦!」 「イメージを裏切る悪役を!」 みたいなレベルではない。 むしろイメージを固めさせる暇すら与えない、というくらいの。
ヒース・レジャーという役者は、一体誰で、何人いるんだろう――おかしな感想かもしれないけれど、本気でそう思わずにはいられなかった。
(ちなみに髪型とひげでかなり印象が変わるので、『サハラに舞う羽根』 では、砂漠に出かける前後の顔と砂漠での姿が同一人物に思えなくて、ちょっと混乱しちゃうくらい。 これは演技力というより、ミスリードにしかなってないど思うんだけど)


『ダークナイト』 のジョーカー。 『ブロークバック・マウンテン』 のイニス。 それらの素晴らしさと、目を見張るほどの 「役になりきった姿」 (ああ、「なりきった」 なんていう表現は言葉足らずだ) はもちろんなんだけど、ここでひとつ例を挙げるなら、私は 『キャンディ』 を推したい。

ヤク中で、まともに働けない・働く気もない、無力で刹那的で自堕落な若者。 やさしいんだけど、かわいいんだけど、『キャンディ』 の主人公である若者ダンは、あまりにも弱く、あまりにも愚かだ。 そして、ダンを演じるヒースの目。 恋人がクスリを買うお金のために身体を売ってるのを知りながら何もしない、あのよどんで思考を停止させた目が、狂気だけれど確かな知性と鋭さを宿していたジョーカーの目と同じだとは、もはや信じられないを通り越して否定してしまいそうなほど。

そしてもう一度、そして何度も、私は思うのだ。 彼は誰で、何人いたんだろう。
それから、「いた」 と過去形で思わなければならないことを改めて痛感させられる。

2年前の今日、2008年1月22日に、ヒースはこの世を去った。 考えるたび、私はこう思わずにはいられない。

私たちは、一体何人の役者を一度に失ってしまったのだろう、と。
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by yumi_in_the_rye | 2010-01-22 10:17 | 訳した本 | Comments(0)
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